英語の「Hello」にあたる日本語は?と聞かれたら、多くの人が「こんにちは」と答えるかもしれません。ところが、「こんにちは」の意味を聞かれたら、「?」となってしまう人も多いのではないでしょうか。
正直なところ、私自身もそんなうちのひとり。生きてきて中で30年もの間、「こんにちは」という言葉にはどんな意味があるのか全く知りませんでした。
そんな中私が「挨拶の意味」に興味を持ったきっかけは、今まで聞いたこともなかったアラビア語に触れたことにあります。そして、アラブの代表的な挨拶である「アサラーム・アレイコム」から、その奥に秘めた美しいアラブの世界を知ることになったのです。
挨拶から見えた「お互いの平和を願う」習慣
「アッサラーム・アレイコム」
「ワアレイコム・サラーム」
これは、アラブの人たちが日常的に交わす挨拶です。「アッサラーム・アレイコム」とは、「あなたが平安でありますように」という意味があり、「ワアレイコム・サラーム」はその返し、「あなたも平安でありますように」という意味があります。
私がこの挨拶に初めて触れたのは、たまたま旅先であったモロッコでした。そこから興味本位で意味を調べてみた時、「なんて美しいやりとりなのだろう」と感動したのを覚えています。
ほとんどの人がイスラム教を信仰するアラブの国では、この代表的な挨拶が共通していることを知りました。当時「イスラム」と聞くと「ちょっと怖い」というイメージを少なからず持っていた私は、挨拶から平和を願い合っているということを知って、何か誤解しているのかもしれないと思ったのです。
そんなことがきっかけで、もっとイスラムの世界を知ってみたいとアラビア語を勉強し始め、そして、そのことが私の人生を本当に豊かにしてくれました。
挨拶に込められた、人々が大切にしていること
実は、「アッサラーム・アレイコム」からはじまる挨拶は、それだけにとどまりません。
現在私が活動の拠点としているモロッコの現地の人たちも、道端で近所の人や知り合いに会うたびに、「元気?」「体調は?」「家族はどうしてる?」と、何度も聞き会う姿が見られます。
「何度も同じことを聞いて何の意味があるのだろう?」
そう最初は思っていましたが、そこにはアラブの世界にある「人と人とのつながり」の強さと、それを心から大切にする現地の人たちの思いが込められていることに気がついたのは言うまでもありません。
そして、そんな挨拶のやりとりの中でも必ず出てくるのが、「アル・ハムドゥリッラー」(神様のおかげで)という言葉。全てのことは「神様が望んだことである」というイスラムの基本の考えにあるこの言葉には、「自分も家族も、そしてあなたも健康で今ここにいられる」ことへの感謝が込められているのです。
丁寧に行う挨拶から見える、美しい世界
日本でも、「元気ですか?」「はい、そちらは?」というやりとりがされますよね。ですが、日本人の「距離を近づける」というスタイルで使われる「お元気ですか?」と、アラブの挨拶はやっぱり違うように思います。
というのも、挨拶する相手が毎日会う人であっても、このやりとりが必ず行われるから。むしろ、よく会う間柄の方がそのやりとりは濃く、そして何度も繰り返されるのです。
距離を近づけるための挨拶なのではなく、むしろ距離が近い間だからこそ、丁寧に時間をかけて挨拶をかわすのが当たり前。さらに、相手の健康や家族、仕事などの状況を1つひとつ確認し合うのが礼儀ともいえるのです。
そして、忘れてはならないのが、神様の創造である「自分」や「相手」の存在を大切に想い、感謝することです。
それから私自身も、長い間会ってない人と再会した時や、まだよく知らない人に対してだけでなく、自分とつながりがある人に対してほど興味関心を向け、状態を確認するようになりました。
日々生きている中で状態や状況が変化しているのは、自分だけでなく誰でも同じということを私たちは忘れがちです。自分に対しても大切な誰かに対しても、「なんとなく知っている」ような気がしているがゆえ、あまり気にとめないことは結構あるのかもしれません。
「アサラーム・アレイコム」の挨拶から見えた「人と人とのつながり」には、人生で大切な要素がつまっていました。アラブの世界は美しく、奥ゆかしさが今日も溢れています。
ちなみに、「こんにちは」は、「今日はご機嫌いかがですか?」という挨拶を意味し、最初の「今日は」を「こんにちは」と読んで、残したものだそうです!